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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』75

last update Last Updated: 2025-01-23 17:01:05

赤坂side

久実が帰って病室には大樹と美羽ちゃんと三人になった。

大樹は美羽ちゃんを椅子に座らせる。

「まだ安定期に入っていないから人には言わないで欲しいんだけど、子供ができた」

「そうだったのか!」

俺は自分のことのように嬉しくて足にひびが入っているというのに飛び跳ねたくなった。ずっと俺たちのせいで二人の子供が天国に行ってしまったと 申し訳ない気持ちで過ごしていたのだ。

「本当によかったな」

俺は思わず涙が出てきて 腕で拭いた。

「 ありがとうございます」

美羽ちゃんが 微笑んでいる。

「ところで、赤坂。彼女とはなんでまだ付き合ってないか? 心配して駆けつけているのに。チャンス大ありだろ」

大樹が呆れた顔をする。

「……まぁ、振られた」

自分の弱い部分を見せてしまって情けない気分になる。

「えー!」

美羽ちゃんがびっくりして大きな声を出す。

「だって、あんなに赤坂さんに惚れている表情をしていたのに?」

「色んなことを考えて、付き合えないと結論を出したんだろうけど。納得いかないんだよな」

俺は強がっていたけれど、不安でたまらない気持ちでいた。

社会復帰した久実はものすごく美しくなっていて、キラキラとしているように見えた。

あの調子なら男に言い寄られてすぐに俺のことなど、忘れてしまうのではないか。

「今度、久実さんを連れてきてください。絶対に!」

「ああ、ありがと」

「きっと……女の子はいろいろ考えちゃう生き物なので。お話してみたいな……」

「じゃあ、お大事に」

大樹と美羽ちゃんは帰った。

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